コーデックス組み換え食品第二回特別部会報告

〜安全性評価の基準づくり〜

田坂 興亜  国際基督教大学

 3月25日から29日まで千葉幕張で開かれた、遺伝子組み換え食品(以後GM食品と略称)の安全性評価の基準を議するコーデックス特別部会の第二会委員会にCI(国際消費者機構)代表の一人として参加しました。今年のCIの代表団はケニア、南アフリカ、アメリカ、タイ、それに日本から私と消団連の日和佐さんの6人で構成されました。

追跡可能性をめぐって

 昨年の第一会委員会は、すでに報告したように非常に公正な議長のもと、私たちNGOの意見もきちんと取り上げられ、大きな進展を見せたのですが、今回はアメリカとカナダの代表が、昨年7月と10月に日本で開かれたGM食品の安全性評価に関する作業小委員会で議長を務めた宮城島氏の協力を得て、フランスが提案し、ヨーロッパ諸国、企業関連以外のほとんどのNGOが支持してきた「追跡可能性」に関する項目を本文から削除しようとする陰謀が露骨に現れた会議となりました。

 「追跡可能性」とは、生産から加工、流通を経て消費に至る全ての段階でGM食品の流れを追跡できるようにする、という提案です。 アメリカでアレルギーを起こす恐れがあるという理由で、食品としては許可されていないはずのスターリンクという遺伝子組み換えのトウモロコシが、昨年日本で市販されていた食品から検出され、大問題となりました。厚生労働省は当初、アメリカ政府が認可していないものが日本の食品に入っているはずがない、と否定しましたが、後にGMトウモロコシが混入していたことを認めました。こうした事件を未然に防ぐためにも、「追跡可能性」は必要です。

 アメリカやカナダの代表は、追跡を可能にするためにはお金がかかると主張しましたが、フランスが提出した文章をていねいに読めばすぐわかるように、現在流通している商品に付けられているバーコードなどを利用して、これにGM食品であることを示す記述を付け加えるだけで、GMOの追跡が可能となるわけで、経済的に大きな負担になるものではありません。にもかかわらず、「追跡可能性」というのは、よくわからない概念である、と執拗に主張したアメリカ政府代表、アメリカやGMO推進企業の利益を守るために、繰り返し雄弁を振るったカナダ代表のボウル・マイヤーズ氏、事態の打開に協力しているように見せかけながら、実はアメリカやカナダの代表と結託して「追跡可能性」を本文から抹殺しようとした日本政府代表で、同時に作業小委員会議長を務める宮城島氏らの、食品の安全を願う市民の思いを踏みにじる発言・行為は、許されるものではありません。

 最終的に「追跡可能性」は、フランスを中心とするEU諸国、ノルウェー、韓国、ナイジェリアなどがNGOと共に、これを本文中に残すことを強く主張したので、議長は「追跡可能性」をかぎかっこ付きで残すこととしました。これを本文から抹殺する陰謀が成功しなかったのは幸いでしたが、かぎかっこが外されない限り、次のステップに前進もできないわけで、アメリカやカナダ代表の企みは、成功したともいえるでしょう。

GMOの比較対照にGMOを?

 次に大きな議論を呼んだのは、GM食品の安全性を評価する際対象とする「従来の食品」(コンペンショナル・カウンターパート)の定義をめぐってです。ヨーロッパ諸国や大半のNGOは、「従来の食品」の定義として、 GMOを含まない、というごく当たり前のことを主張したのに対し、アメリカ、カナダの代表は、従来の食品の中にGM食品を含めるべきだ、という驚くべき発言をしました。そして、日本政府代表(宮城島氏ではなく、英語のへたな若い官僚)が、こともあろうに、これに同調したのです。

 このコーデックス会議のそもそもの目的は、GM食品の安全性を評価する基準を作ることです。その会議に、GM食品の比較対象物にGM食品を含めるという主張をすることは、会議そのものの目的を否定することになります。 この破壊的な意見に対して、ノルウェー、スウェーデンなどの北欧諸国が激しい批判の声をあげ、会議に参加していたほとんどの国とNGOが、「従来の食品」にはGM食品を含まない、という文言を書き入れるべきだと主張、最終的に議長は、「当面の間(for foreseeable future)、対象とする従来食品にGM食品は含めない」という注を付けることを提案し、さすがにアメリカもカナダも、これに反対することをあきらめたのです。

DNA情報の検討範囲をめぐって

 GM食品の安全性を評価する際に、挿入した遺伝子の情報として、DNAの遺伝子の情報の並び方を具体的に対象にして検討すべきである、という原案に対して、アメリカ、カナダ、ブラジルなどは「べきである」(should)ではなく、「しても良い」(may)に変更することを主張、これまた議論が沸騰しました。これに関しては、日本政府の代表が「すべきである」とすべきだ、と主張し、WHOの代表も、「DNAの並び方を検討することによって何らかの不都合が生じるというのなら、その具体的な事例を示せ」とアメリカやカナダの代表に迫りました。彼らはこれにまともに答えることができず、最終的には、「DNAの並び方を検討対象とすべきである」ということで決着しました。

今後の課題

 最終日に、今後の計画が話し合われ、GM微生物に関してはアメリカが、GM食品とアレルギーをめぐる問題については、カナダが議長国となることを買って出て、作業小委員会がつくられることとなり、来年の3月にまた幕張で第三回の特別部会が開かれる際に、何らかの提案を出すことになりました。

 しかし、アメリカとカナダの代表は、それぞれの国内で遺伝子組み換え食品の安全性に強い懸念を持つ市民も数多くいるにもかかわらず、完全にGN食品推進企業の利害を守ろうとする立場から作業小委員会を運営すると思われるので、これらの国々のNGOと連絡を取り、小委員会が開かれるたびに、これを監視し、そこでどのような提案が形作られて行っているのかを、食品の安全を願う世界各国の市民に広く知らせていく必要があります。特に、カナダ政府の代表が、余りにも企業の利益のみを代表していることを糾弾して、この代表のリコールをする運動を展開する必要もあろうかと思います。

 コーデックスが設定する安全基準は、WTOが「自由」貿易を優先して食の安全を無視する根拠となるでしょう。 次の世代に安全な食環境を保障してゆくために、私たちは譲ることのできない選択の前に立たされています。

--消費者リポート1149・1150合併号より転載--