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天笠 啓祐

欧州の最近の動向から

 このところヨーロッパの動きが活発で、目が離せない状況がつづいている。流れをまとめてみた。
 米国が、ヨーロッパがGM作物を拒否しているとして、WTOに提訴したことが出発点であった。このところGM作物をめぐって、米国とモンサント社による、対EU攻勢強化が目立つ。現ブッシュ政権とモンサント社との癒着構造がその背景にあることは、いうまでもない。

 5月13日、米国は、EUが98年よりつづけている「GM食品の停止措置(モラトリアム)」に関し「米国の農産物や食品が欧州市場から締め出された」として、WTO(世界貿易機関)に提訴すると発表した。欧州委員会はこの提訴に対して反発し、争う方針を確認した。ここから激しい攻防戦が始まった。

 米国は提訴を正当化するために、賛同国を募った。カナダとアルゼンチン、エジプトが提訴に加わる、と発表した。しかし、5月27日、エジプト在EU大使が書簡で、「提訴に参加しないことを決定した」と表明し、米国に衝撃を与えた。それでもオーストラリア・ニュージーランドのオセアニア、メキシコ・ペルーなどの中南米諸国が米国支持を表明した。

新表示規則成立以降


 その後、ブッシュ大統領が、コネティカット州の沿岸警備官養成学校卒業スピーチで、EUのGM政策がアフリカの飢餓を促進している、と非難した。EUの政策がアフリカ諸国の食糧援助拒否をもたらしているという趣旨の発言である。

 この発言に対して欧州委員会がさらに反発し、「我々は一度も食糧援助を妨げたことはない」「話し合いで解決する限界を超えた発言だ」と反論した。(The Guardian 03/5/24など)
 米国の圧力とEUの反発は、その後もつづいた。EU議会(第2読会)は7月2日、遺伝子組み換え食品の新しい表示規則を可決成立させた。この新表示規則成立とともに、これまで行ってきたGM作物輸入のモラトリアム(一時停止措置)解除も決まった。

 米国は、EUが行ってきたモラトリアムが食料輸出を拒んでいるとして、WTOへの提訴を決定したが、その根拠が失われることになる。しかし、新しい表示規則は、消費者の知る権利、選ぶ権利に配慮した画期的内容であるため、米国産作物が入り難い状況はつづくため、ブッシュ政権は、この表示規則を事実上のモラトリアム継続だとして批判した。

 このモラトリアム解除に対しては、市民団体も非難した。立場は米国とはまったく異なる。地球の友やユーロコープなどは、GM作物と慣行農業・有機農業との共存問題があいまいな状態で解除したことに懸念を表明した。またフランス農民連盟はGM解禁だとして抗議の声明を発表している。(ロイター03/7/02など)

EUがGM栽培指針をつくる


 欧州議会が新しいGM表示規則を可決し、いよいよ新しい表示制度がスタートすることになった。
 日本の表示制度は、消費者の知る権利・選ぶ権利を奪っている。それに比べて、EUのこの新しい表示制度は、全食品表示であり、日本のように例外をもうけていない。全成分表示であり、日本のように上位3品目(重量比5%以上)に限定された表示でもない。

 この全食品・全成分表示に加えて、GM作物が0.9%以上混入(未承認作物の場合は0.5%)した食品は表示の対象になる。さらにトレーサビリティも義務づけられる。以前EU議会(第1読会)は承認・未承認にかかわりなく0.5%を可決していたが、後退した形となったが、日本の混入率(5%以上)に比べると厳しい数値である。

 ヨーロッパに行き、スーパーなどで買い物をする時、表示を見て「GMO」という表示が見当たらなければ、遺伝子組み換え原料が一切使われていないことを意味する。さらにレストランでも、メニューに表示しなければならない。日本は表示の必要がないため、レストランでは選ぶことができない。さらに家畜の飼料や種子も表示しなければならない。日本では、両者とも表示を行っていない。

 このように比較していくと、日本の表示制度が、消費者の権利ではなく、企業の都合に合わせてつくられたことがよく分かる。
 7 月22日、EU加盟国の農務大臣がこの新表示規則を承認した。9月に官報に掲載された後、20日後に発効する。それを受けて、モラトリアム状態がつづいていたGM作物の承認作業が再開されることになる。さらに翌23日には、EUの行政機関である欧州委員会が、GM作物を栽培する際の指針を発表した。

 遺伝子汚染を避けるため、GM作付け農地と他の作付け農地の間に緩衝地帯を設けるため、距離をとったり、林を植えること。生産者間で情報の共有して花粉飛散の異なる作物を植えるなどがあげられている。この指針に基づき各国で検討が始まり、栽培のルールづくりが行われる。

 しかし、自然界では完全隔離は不可能であり、GM作物農業、慣行農業、有機農業の3つの農業が共存することは不可能に近い。各国でどのような議論が行われるのは不透明である。

英国での新しい動き


 ブッシュと並んだGM推進派の旗手だったブレア政権が、足下から揺らぎ始めている。チャールズ皇太子が、7月29日に、改めて「GM作物は英国内では禁止すべきだ」と発言したことも、波紋を広げる一つの要因だった。(Western Mail 03/7/30)

 新表示規則をEU農相が承認する前日の7月21日、英国政府は「GM Science Review」を発表した。これはGM作物の科学的評価を行ってきた科学委員会報告である。ブレア政権は、GM作物を推進するために、GM作物の経済性を諮問した経済委員会と、安全性を諮問した科学委員会を組織した。

 その後者の委員会の報告であり、遺伝子組み換え作物・食品を科学的に検証した報告である。食品として健康に及ぼす可能性は低いものの、環境には深刻な影響を与える可能性がある、という内容であった。

 食品として危険性が低いとしているが、リスク管理がきちんとなされておらず、健康への影響を検知するシステムもできておらず、現在、顕著な影響が見られないからといってまったく影響がないとはいえない、と指摘している。

 この検討パネルで、環境保護団体や有機農業の団体からの推薦で委員に任命されていたアンドリュー・スターリング博士に対して、同氏の業績を傷つけ、信頼を失墜させ、パネルから外そうとする目論見が、GM推進派の研究者によって密かに進められていたことも明るみに出た。また、パネルでの検証がGM推進派にかたよっているとして、ニューカッスル大学のカルロ・レイファートが委員を辞任する事態も発生している。(Independent 03/7/26)

 7月25日、英国環境省は、実際の農場で行われたGM作物評価研究の一環で、GMナタネを栽培した農家に対して、実験後に同じ畑に非GMナタネを栽培しないように警告を発した。GMナタネの種子が大量に土の中に残存して、非GMナタネに高い割合で混入する可能性があるからだ。

 この警告は、EUの新しい表示規則によって、混入率の上限が0.9%と設定されたことと、7月25日に出されたGM作物の安全性は不確実だとする政府委員会報告に基づいて出されたものである。(ガーディアン 03/7/26)

 イラク戦争でブッシュと一体となり、汚点を残したブレア政権が、GM作物・食品でもつまずいている。ブッシュ・モンサント社と一体になって推進すれば、ヨーロッパの中でも孤立することが見えてきたといえる。世界はいま、GMか反GMかという選択する岐路に立っている。この日本も例外ではない。

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